山の事故について

 転落・滑落

 

山岳遭難事故統計の事故要因データで毎年大きな割合を占めているのが転落と滑落です。つまづく、浮石に乗る、滑る、バランスを失う、などささいなミスから転落・滑落事故に繋がっています。これらの事故の多くは当事者の不注意やミスで、慎重に行動すれば防げるものがほとんどです。

危険箇所では細心の注意を

常に慎重に行動するように心がけることが重要です。特につまづいただけで転落してしまうような岩場では細心の注意が必要です。またすれ違い時には、ザックが体に当たって転落してしまう事故もあるので、このような場所では自分の安全を確保するだけでなく、自分以外の登山者に危険を及ぼさないよう他の登山者の動きにも注意を配りましょう。

 

気の緩みに注意

その他、気の緩みによる転落・滑落事故も多くみられます。危険箇所を抜けたあとは特に気が緩みやすく、「こんなところで?」と言う所で事故が起こるケースがあります。また山頂に登ったあとの下山時も気が緩み事故に繋がりやすくなります。危険箇所を抜けたあとや、もう少しで帰れると思った時こそ、もう一度気を引き締めなおし慎重に行動するようにしましょう。

 

雪渓を歩く際はアイゼン(クランポン)をつける

谷筋を埋めていた雪が夏まで解けずに残っているものを雪渓と呼びますが、雪渓も滑落の危険性が高いポイントの1つです。雪渓で滑落してしまうと露出した岩などに追突してしまったり、シュルンドと呼ばれる雪渓の隙間に入り込んでしまう事故にも繋がります。シュルンドに入り込むと自力で脱出できなくなり、低体温症で命を落としてしまう可能性があります。滑って滑落しないためにも、雪渓を歩く際には必ず軽アイゼン(クランポン)を装着しましょう。

 

道迷い

道迷いとは本来たどるべき登山コースを外れ、現在地がわからなくなってしまうことを言います。そして山中で何日もさまよったり、行動が出来なくなってしまう事を道迷い遭難と言います。山岳遭難の統計を見ても、遭難者数全体の約40%が道迷いによる遭難でダントツのトップです。

 

道に迷わないように行動する

道に迷った時の対策より大事なのは、まず道に迷わない様にすることです。地図とコンパスをしっかりと使いこなせるようにしておくのは登山の大前提です。面倒くさがらずに小まめに地図をチェックし、現在地を把握することを怠らないようにしましょう。また不注意により道標や目印を見落とさないこと。迷いそうな場所では緊張感を持って歩くようにしましょう。

 

「おかしい」と感じたら引き返す

道を歩いていて「おかしいな?道はあってるかな?」と感じたら、とにかくもとの正しいコースに戻ることが大事です。そしてまず気持ちを落ち着かせるために一息入れるのも大事。冷静に周りを観察すれば、簡単に目印が見つけられることもあります。目印が見つからなければ地図とコンパスを使って現在地を確認します。最後に現在地を確認した場所と方角、時間などを考慮しおおよその現在地を出せば、間違った場所を思い出せるかも知れません。

「もうちょっと行ってみよう」は深みにはまる典型です。現在地がわかっていないのなら、距離が遠くても最後に現在地を確認した場所まで引き返す方が確実です。しかし引き返す際にも注意が必要。来た時と景色が違うので、よく周りを観察しながら慎重に行動しましょう。

 

沢を下らずに尾根に登る

歩いてきたコースがわからず辿る事もできない場合には、尾根の高い方を目指して登ります。「沢を下れば人家に出る、沢のほうが下りやすそうだ」と遭難時は楽な方に考えてしまいがちですが、実はそうではありません。沢は進むにつれて険しくなり、滝や崖が現れ立ち往生、無理をして滑落、と言うのが最悪のパターンです。

遭難し、なおかつ疲労困憊の状況で山の高い方へ登ることは非常に重労働ですが、尾根に出ると視界が開け現在地の確認がしやすくなります。また登山道は尾根上を通っていることが多いので、登山道に行き当たることができます。沢を下るのは自ら死に近づくようなもの。遭難しても決して沢は下らないようにしましょう。

 

状況が良くならないときは待機かビバーク

稜線に出ても雨や霧で視界が悪い時には無理に行動せず、雨風をしのげる場所で体力を温存します。しかし待機をしても状況が変わらなそうな場合には、ビバーク(緊急露営)をする必要があります。日が暮れないうちに安全な場所でビバークし、翌日に備えて体力を消耗しないように努めます。ツエルトなどを携行しておきましょう。

 

高山病

高山病とは標高があがり酸素が薄くなることで生じる、疲労や発熱、吐き気、頭痛などの様々な症状の事をいいます。

2000m以下の山でも高山病になり、バテや風邪の症状に似ているので区別がつかないこともあります。高山病の症状が出ているのに無理をして行動をすると、さらに症状が重くなり危険な状態にもつながります。高山病になったときは無理に行動せず、体を休めながら様子をみましょう。行けそうなら登山を続ければ良いのですが、体調不良が続くようなら一度低高度を下げて様子をみましょう。高山病は下山すれば改善することが大半です。

 

しっかりと睡眠をとって登山をする

高山病を予防するためには、なんといっても睡眠不足での登山を避けること。

一気に標高を上げる登山やハードな登山、また体力に自信の無い人は、睡眠時間の少ない山行予定は組まず、山麓で一泊するなど余裕のある山行予定を組むようにしましょう。

 

体を高度に慣らす

富士登山のように車やバスで一気に標高の高い場所に行く場合には、体を高度に慣らす必要があります。登山前に体を高度に慣らす時間を作ること、また登山初日はなるべくゆっくりと歩きましょう。

 

低体温症(疲労凍死)

低体温症とは直腸温などの中心体温が35度以下になり、生体活動の維持に必要な水準を下回ったときに生じる様々な症状の総称です。登山では悪天候で行動不能になり、ビバーク中に疲労凍死という事故が過去に頻繁に起きています。
低体温症は冬山だけでなく、夏山でも風雨にさらされ続ければ簡単に生じますので、夏山と言えどしっかりとした防寒対策、そして濡れた服を着替えるなどの対策が必要です。

 

落石

落石による遭難事故は全体の割合に比べ少ない方ですが、落石に直撃されると死亡、重傷を負うケースが多いです。

落石が多発する場所は、雪渓や岩場、ガレ場。落石の可能性がある場所を通る際には上部を警戒し、このような場所では休憩をしてはいけません。

 

雪渓の落石

雪渓の落石は長い距離を転がり、猛スピードで加速して落ちてくるために大変危険です。岩場の落石とは違い音も聞こえづらく、また多方向からも落石が飛んでくる可能性があるので雪渓を歩く際には充分周囲に注意を払わなければなりません。

 

ガレ場・岩場の落石

ガレ場や岩場での落石は人為的なものが多いです。特に夏場の登山者が多い時期のガレ場では、頻繁に人為的な落石がおきています。このような状況の場合、自分の上部を警戒するのはもちろん、落石に気づいたら自分以外の人に知らせなくてはなりません。「ラク!!」と落ちていく先に叫んで合図を送りましょう。

そして自分で落石を発生させないようにすることも重要です。浮石には良く注意し、怪しいなと思うものがあったらしっかりと確認し、安定しているとわかっても静かに扱うようにしましょう。またこのような登山道を歩く場合には、必ずヘルメットを着用するようにしましょう。